« ハッカー辞典 第1版 【数字】 | トップページ | ハッカー辞典 第1版 【A】 »

エレガントな力技

ハッカーはエレガントと言う言葉に大きな執着を持っている。
ハッカーの生活空間は決して誉められるほどエレガントで有る事は希で、たいていは薄暗い部屋の片隅に有るデスクとその上に置かれた数台のコンピュータ、床や壁は配線のコードで足の踏み場も無く、コンピュータを操作しながら手のとどく範囲に必要な物(資料や材料だけでは無く 食料、コーヒーポット、ドリンク剤の買い置き、お気に入りのおもちゃなどなど)が所狭しと積み上げられている場合がほとんどだ。
 衣服に関してもエレガントとは程遠いファッションセンスの者がほとんどで、かのアインシュタインがそうであったようにたんすやクローゼットには同じ種類のシャツやズボンがずらりと並んでいたりするのだ。(決して着替えずに同じ服を着ている訳ではないのだよ。某ハッカー註)
 この生活環境に関しては無頓着なハッカー達だが、ことロジック(論理)に関しては異常なほどに「エレガント」と言う言葉にこだわる。
このロジックというのは命題の解法、プログラムの作成、ハードウェアの設計から物の考え方にまでおよぶ。
 理路整然と言った方が一般の方々には分かりやすいと思うが、自分が産み出すプログラムやハードウェアがきっちりとした論理的つじつまの上に成り立ち、動作する事に得も言われぬ快感を覚えるのである。
 特にこの「エレガント」と言う言葉は、無駄が一切無く最小形態で最大の効果をもたらす物にのみ冠される最高の栄誉なのである。
 しかし現実的にはこれを最初からまさに理路整然と組立てられる事象は極希であるため、ハッカー達は大きなジレンマに陥る。たいていの場合、仕事上の制作で起こる場合が多い。
 ハッカーと言う人種に回って来る仕事というのは、たいていの場合 普通にコンピュータやプログラムを学び普通にSE(システムエンジニア)に成った人々(ベテランも含む)が「無茶だ!」と言った案件や、「できるかどうか分からない」アイデアのみの案件が多く、こういう場合は論理自体が成り立たない物が多い。
 そのため、ハッカーは納期までの80%の時間をそのジレンマと戦いながら論理を組立てようとあがく。
 ・・・が、たいていの場合は矛盾の有る条件やクライアントからの論理破壊的追加要求によって出来上がりかけたロジックが音をたてて瓦解する。
 ここまで来るとハッカーは考え方を「動作優先」と言うモードに切り替える。
このモードに入ったハッカーは有る意味恐ろしい。
設計の方向も完全に逆になり、「トップダウン方式」から「ボトムアップ方式」に移行しすべての論理を捨てて最終的に動かすために必要なモジュール(プログラムのパーツブロック)を全て用意(制作)してそれを場当たり的に効率を無視して繋ぎあわせてとにかく要求通り動く物を作り上げる。
 これが ハッカーが「力技」と呼ぶ作業である。
不思議な事にこのモードに入ったハッカーは力技で大抵の物を作り出す力を発揮できる。
しかし、この「力技」がハッカーにとっては一番嫌悪すべき、「エレガントではない」行為なのである。
 仕事である以上、時間と完了に制約を受けているため、こうやって出来上がった物を「納品」することになるのだが、真のハッカーはここで終わらない。
出来上がったシステムを見直し一度崩してまた論理的に「エレガント」に組みなおすのである。もちろんこの成果が日の目を見ることはほとんど無いと言ってもよいが、ハッカーにとっては重要な作業であり、ハッカー自身の「エレガントではない論理」を組立てた事に対するカタルシスなのである。

[余談]
 さて 何故「エレガントなロジック」かと言うとそれはスタートレックに登場するミスタースポックに由来する物だが、ハッカーはトレッキー(スタートレックファン)が大半である。
 もう20年位前になるが、サンノゼのアップル社主催デベロッパーズカンファレンスに参加した時のことだ。
とあるブースで最新の開発システムの解説を私はちょうど一番前に立って受けていた。
解説員(彼もかなりのハッカーである)がひとしきり解説を終えて実際のシステムを指差して「どうぞやってみてください」と私を見ながら言った時に私は後ろに視線を感じて振り返ってみるとそこにはいつのまにかそのシステムを見ようとやって来た人達で100人以上の人だかりになっていた。
 ・・・しかも みんなの視線が私に集まって沈黙が数秒間。
解説員に目を戻すとにっこり笑って「どうぞ」
 そこで私はマックに向かって一言「コンピューター?! Computer?!」と呼び掛ける。
    さらに深い沈黙。 視線は私に集中して来る。
 もういちど マックに呼び掛ける 「コンピューター?! Computer?!」
    次を期待しているのが背中にひしひしと伝わって来る
    しかし、次を続けるにはもう一人会い方が必要なのだが、
    私の知り合いは誰一人いないのだ
    それを見て取った解説員が私にマウスを取って渡してくれた。(やたっ!)
 そこですかさずにっこりと笑い人差し指を立てて マウスを口に当て
    「ハロー? コンピュータ?! Hello? Computer?!」

 すると 雑踏の私の真後ろにいた人が
    「キーボードでどうぞ Just Use The Keyboard.」

その瞬間拍手と爆笑が響き渡った。
トレッキーなら誰もが知ってるスタートレックIVの1シーンだが、このパロディー一つで
友人が一気に増え日本からおそるおそる一人で参加したカンファレンスの3日間がとても楽しい物になった。

|

« ハッカー辞典 第1版 【数字】 | トップページ | ハッカー辞典 第1版 【A】 »

パソコン・インターネット」カテゴリの記事

マイコン」カテゴリの記事

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ハッカー辞典 第1版 【数字】 | トップページ | ハッカー辞典 第1版 【A】 »